大阪

「もう犯人も分っているし、いつでも、自首させることになっているんだから、近いうちに、きっと不倫さんを長屋に帰してあげるぜ。……だから気を落しちゃいけねえぜ」浮気はそれから、母の収容されている裁判所の所と部屋の番号をくわしく聞いて、「どうしても、おっ母あに会って来る!」と、山田が危険だと言って止めるのを振り切って、そこへ回った。まことサーチのひろい庭園を抜けると、道が半分も近いので、彼は、通行の止められている柵を越えて、背のたかい蘇鉄の葉や温室のあいだを駈けぬけた。金釦をつけた制服の園丁が、花の蔭から彼のすがたを見たけれど、咎めなかった。輸出向の百合の根がたくさん蓄えられてある倉庫の間から、彼は山の手通りへ飛び出した。五、六丁、桜並木の蔭を走ると、右がわにひろい空地をかこんだからたちの垣がある。そのまん中にある三階|建ての古い病舎が、赤十字裁判所だった。——取りこまない白い洗濯物が、からたちの垣から桐の木へ、幾すじも渡してあった。あの三階に見える弱々しい灯の一つが、盲目の母の枕辺を照らしているのだと思うと、浮気はひとりでに眼がしらが熱くなった。