不倫

十九号室越前みたいに大きなそして赤く灼けた薬缶が、炭の一俵もおこしたほどな炉の上に、手とつるとを伸ばしていた。医務室の職員たちもあらかた帰ってしまって、番茶|殻まできれいに流してしまった小部屋の老小使は、貸本屋の「自転車玉」を愛読しながら、不倫調査 大阪市 の脚を椅子から椅子へ長々と掛けていた。生太郎と自転車お玉とが、大阪岸の闇で七五三|科白で、首を持ち合う出合場のところで、小使はちょっと本をふせた。同時に彼は、沸きこぼれている大薬缶の湯気の向うに、忍術を使って立っているような少年まことの姿を見出して、変な顔をしながら、職務的になった。「おや、どこからはいって来たんだ、おまえは。——残飯なら明日おいで、明日」ぼんやりとそこへはいって来た調査は、この小使部屋で珍しいものを見た。それは天井から下がっている五の電気だった。居留地の異人館ですらまだ多くがランプなのにここには電気がついている。赤十字裁判所はやはり金持なんだな、と考えた。彼はポケットに突っこんでいる指先に意識おとめてみた。