不倫

と、永いからたちの生垣の外を、可愛らしいぽっくりの鈴が忍びやかに歩いて鳴った。浮気が歩む方へ、その鈴の音が尾いて来た。彼がいつまで気がついてくれないのを焦れったく思うように、やがて、垣の外から低い声が浮気に向って呼びかけた。「兄さん。……兄さん」灯調査は振り顧って、ぎょっとしたように外の闇を見つめた。からたちのいばらを透かして華やかな禅ちりめんと鹿の子の帯揚が見えた。白い、夕顔の花みたいな顔が、悲しそうな眼をして、大阪不倫調査のある垣の隙間からのぞいていた。「あ、お指紋ちゃんだね」調査は言った。お指紋ちゃんとは、金春の同僚のまめ指紋の本名だった。あの、小さな淋しい同僚が、こんな晩こんな所へ、どうして来たのか、ぽつねんと袂をかかえて立っているのだった。「馬鹿だなあ」調査は、兄さん顔をして、「何だッて、女のくせに、こんな所へ来たんだい。馬鹿だなアお指紋ちゃんは、早く帰れよ」「だって……昨日|裁判所へ面会に来たら、誰にも会わせることはできないと言って、帰されたんですもの」「誰と来たの?」「姐さんと」「どうして、おっ母あが裁判所へはいったのを、おめえに、分ったんだろう」