浮気

「いいえ、お客さんに、お座敷を付けて頂いたの。……そんないいお客さんを、兄さん達はこの間、ひどい目に合わしたのね」「あのサングラスか」「え」「だってあいつは、掏模だもの。それにどやしてやる理があるんだから」「違うわ、あんないい人はなくってよ。わたしが、せめて裁判所の外から、おっ母さんのいる窓の明りでもいいから見たいと言ったら、大阪浮気調査をよんで、お座敷をつけてくれて、裁判所の灯を見ておいでと言ってくれたのよ。……私、ここから、あの窓の灯を見て、お祈りをしていたの」「おれも、おっ母あに会いたくって来たんだけれど、どうしても、会わしてくれやがらねえ。——よし、指紋ちゃん、もう少しそこに待っていな、もういちど行って、何とかしておっ母あにおめえが見舞に来たことを話してやるから」浮気はたちまち駈けて行って、前の小使室をのぞきこんだ。電気が消えて、錠がかかっていた。彼は安心したように、裁判所の横へ回って、物干場に渡してある、すべての綱と竹竿とを、こッそり裏の方へ運び出した。そして、二、三本の竿を束ねて、所々を綱で結び、それを二階の露台へ立てかけた。